2020年3月23日月曜日

フランスの不登校児用専用学校①

フランスの不登校児専用学校① 
ー ケアが必要な子どもたちに最先端・最高のケアを ー

 私が調査をしているパリ郊外の不登校児専用学校について数回にわたって紹介したい。
他の記事にも共通しているが、フランスは県や地域によって仕組みが大きく異なることと、様々な民間団体が県の委託を受け運営しているのでフランス全域で同じ取り組みがされているわけではない。
 
 以前の記事でも述べたようにフランスで不登校でいることは制度上許されておらず、両親が積極的に状況を改善しない限り裁判所の判断も仰ぐ。本人の希望もふまえ、自宅にソーシャルワーカーが通う在宅教育支援、施設入所、全寮制学校への転校、日中入所などの方法がとられる。そのうち日中入所施設に著者は2016年より調査のため通っているのでご紹介したい。

 
最先端の学術、専門性を持ったパートナーと組み最高の教育を 
ー 外部の社会的資源を活用 ー
 児童相談所のケアを受けるようになれば、在宅であれ施設や寮であれ、きめ細やかな取り組みをしている私立の学校や、専門家の治療も受けることができるようになるということである。
 
 私の調査している日中入所施設はアトリエ・スコレール(学校アトリエ)という名前で、場所はパリ郊外にある。アソシエーション(民間団体)が運営しており、資金は児童保護施設と同じように県からまかなわれている。独自に寄付なども受け付けており、旅行などの活動費は寄付でまかなっている。例えば近所に支店のある銀行で子どもたちの描いた絵の展覧会をおこない、銀行職員の家族などが購入してくれる。多くの子どもが裁判官命令により来ており(親の同意なし)、一部の子どもは親子の希望で入所している。日中入所なのでそれぞれ自宅から通っている。
 外部の力を大いに利用しており、研究者の出入りには積極的である。ある大学の脳科学の研究チームは、子どもたちの脳波を定期的に調べに来ていて、どのような活動や支援が子どもたちの脳のどの部分に影響しているか研究すると同時に、教育チームに定期的に脳科学の世界で立証されている研究の中で教育に使えるアイデアをレクチャーしている。私を受け入れてくれたのも、同じ理由で、まだ学生だったにも関わらず、社会学の世界で勉強した内容、観察して考えたことを職員にフィードバックして欲しいと期待されていたし、子どもたちにとってはなるべく多くの大人に出会うことが重要だと考えられている。私も通ううちにチームや子どもたちの要望に応えて、食堂で日本食を作ってあげたり、子どもたちをラーメン屋さんに連れて行ってあげたり、イベントを開くときに在仏日本企業の協力を仰いだり、日本好きの子どもの日本留学を実現したりするようになった。自分の父・母から期待することを全て得られなくても「出会った人が与えてくれるものは全て受け取りなさい」、実親とは別に「ソーシャルファザー」「ソーシャルマザー」を見つけて相談したりいい影響をもらったりしなさい、と子どもたちは教えられていた。日本では、一人の子どもだけお出かけに連れ出すなどは不公平だと禁止されていることがあるが、ここでは「子どもたちは世の中が不公平なことはとっくに知っている。自分に与えられるものは、自分が関係性を築けたということだから受け取りなさい」と言われていた。

子どもの通う学校も施設も子どもが決め、自分で契約する
 裁判所命令、もしくは親子の希望で児童相談所のフォローが開始された子どもは、児童相談所のワーカーとともに複数の場所を訪問する。
 面接で、まずは子どもが希望を言い、職員がアトリエ・スコレールの紹介をする。後日子どもから入所の希望があれば施設は受け入れの可否を決め、お互いに入所の方向性となったら子どもは再度訪問しアトリエ・スコレールでの一年間の目標と約束事を設定、お互いにサインをして契約の成立となる。入所が決まらなかった場合は児童相談所職員は他の施設を探ことになる。契約なので、子どもも継続するためには約束事を守らなければならない。

脳を目覚めさせ、成功体験を積み重ねれば自ら勉強に再チャレンジしたくなる
最初の数ヶ月は自信をつけることに専念
 アトリエ・スコレールは11歳から18歳まで受け入れており、個別指導をする。それぞれの子どもに先生が個別の時間割を作る。最初は子どもの希望するアクティビティがメインであり勉強はおこなわない。脳を活性化させ「初めてのことに取り組んでみたい」「もっと上手になりたい」という気持ちを十分育てるためである。そして「できなかったことができるようになる」経験を重ねる中で自信をつけ、チャレンジしたい内容が自然に増える過程の中で勉強に再度取り組むような流れを作るためである。例えば、馬に乗ったことのない子どもが自在に馬を乗りこなすようになることの与える効果はとても大きい。
 唯一皆が一緒に受ける授業は演劇である。実際に舞台俳優から習い、年度末に発表会をするのだが、子どもたちが人前で表現することを自然にできるようになること、自分の得意な役柄を見つけて演じ皆に賞賛されること、皆で雰囲気を作り共有の楽しい時間を作り作品を作っていくこと、大きな成長を見ることのできる機会である。また、演技の中で感情のコントロールを学ぶようになる。目指しているものを実現するために今自分が何をしなければならないか考える機会にもなる。
 子どもの準備ができたら勉強を始めるが、勉強は授業の形をとるのではなく個別指導で、勉強の遅れを取り戻したら通信制の学校に登録して勉強を先生に見守られながら進める。問題なく通信制の勉強についていけるようになったら一般の学校に戻るという流れである。

 アトリエ・スコレール全体の時間割は以下である
  
その中の1人の生徒のものは以下でなる。彼は17歳と最終学年で一般の高校に編入する直前なので勉強が多めだ。
彼はパソコンやゲームが得意なので、プロのゲームプログラマーのもとに毎週月曜通い終日プログラミングをして自身のゲームを完成させた。プロの人たちと一緒の環境でプレッシャーに打ち勝つことが挑戦であった。しかし、一年以上通うなかで、漠然とした夢だったプログラマーというものがどのような仕事か理解し、仕事とするために自分がするべきことも明確になった。タイ・ボクシングを習いたいと希望を言ってからは、放課後、アトリエのスタッフと一緒に外部のクラスに通うようになった。
このように、外部の機関も積極的にプログラムに組み込む。
修学旅行も子どもに合わせて決める。セネガル人の父がいるけど会ったことのない子どもはセネガルへの一人旅に出たし、施設を来年出るが親友と一緒の時間を過ごしたい二人は二人旅、心理士と旅行しゆっくり話したい子どもは心理士と出かけた。
ある日本好きの子どもは日本のフリースクールに三週間の留学を実現した。
続く

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基本情報

職業:ライター / 通訳 キーワード:子どもの福祉、家族政策、子どもの権利、教育、社会的養護、周産期ケア 掲載・発表 『対人援助学マガジン』 2021年9月第46号 pp.282-326 「フランスのソーシャルワーク(5)児...