2020年2月21日金曜日

パリ市ホームレス調査 当日編

パリ「連帯の夜」当日編

パリ市の400人のソーシャルワーカーと1500人の市民ボランティアが市内の全ての道、駅や駐車場などをくまなく歩き、その日路上で寝ている人の数を数え、状況の聞き取りをする「連帯の夜」。

3年目である2020年1月30日当日は19時に参加する区の区役所に集合し、自分の担当区域のチームに配属される。ソーシャルワーカーや経験者であるリーダー1人に市民ボランティア3人ほどのチームである。
私はリーダーが30年前から区の様々な活動に参加している区のことをくまなく知っているという50代男性、女性30代弁護士、女性20代学生は政治関係と環境関係をテーマとしているということだった。事前に登録すれば未成年を連れて来ることもできる。
22時から1時までは何かあった際は市の保険でカバーされているので、その間に調査活動を終える必要がある。19時から21時前までは全体で研修を受け、21時から出発までは、どのように道を回るかチームごとの打ち合わせをした。
必要な人は区役所に心理士が待機しているので、見聞きしたことや感じたことを心理士に話しに戻って来ることもできるということだった。

研修は、路上生活者の現状と問題になっていること、調査の目的、方法論、統計の取り方、倫理的な注意事項などである。

特に、慣れていない人はホームレスを見た目で判断することが多いので気をつけるようにという指摘があったが、実際この夜出会ったホームレスのうち2人はこざっぱりとした一般と変わらない身なりをし、きれいなリュックを一つだけ持っているといういでたちだった。 私の担当地域は、普段はホームレスを2-3人見かける場所だが、一昨年の調査では5人、去年の調査ではゼロとなっている。調査者の識別する力によるところと、天候による部分も大きいように感じた(とても寒いと路上で寝るのは危険なので歩き続けたり夜間バスに乗っていることもあるし、雨の場合も普段とは違うところにいることが多い)。
自己紹介の仕方や調査の説明の仕方は渡される書類にも書いてある。リーダーたちは別に事前研修を受けてきている。




担当区の中の、担当地域の地図をもらい、この全ての道をくまなく歩くにはどのように回るか作戦を立てる。ホームレスが集中する中央通りを最初に歩くか、最後に歩くか話した末、眠る場所に戻る遅い時間に行けるよう最後に歩くことになった。その結果、すでに寝ていて話しかけられない方もいた。
リーダーは経験があるので、最近集めておいたという1ユーロ、2ユーロ(120円、240円相当)玉をたくさん持参していた。匿名、無報酬での質問だが、調査に答えたお礼に何かもらえると喜んでもらえることが多いためということだった。家にあった食べ物以外持ってきていなかった他のメンバーは、研修で配られる夜食キットを質問に答えた人に渡した。
 22時に調査を開始できるよう21時40分に出発し、歩いて現地に向かう。途中の道でもたくさんのホームレスに出会ったが、他の人の担当地域なので声はかけない。
普段住宅地を夜歩き回ることはないので、いつもと違った風景に見える。
最初に心当たりにある場所に行くと、1人横になっていたが、目が合ったので話しかける。スーパーの入り口付近にいた。
50代男性。「6年前に病気で仕事を失い、路上生活に入った。施設に行ったこともあるが、400人もいるような巨大な施設で朝起きるとバッグどころか靴もなくなっていたのでもう二度と行かない」
次にバス停で2人話す40代後半の男性は、バスを待つ様子ではなかったので声をかけると二人ともホームレスだった。きれいな身なりをし、きれいなリュックを一つずつ持っている。
「市の公務員として市の建物の屋根の上の修理の仕事をしていたが、落ちて足が悪くなったことを理由に退職を迫られた。15年前に路上に来てからは、二度ピレネー山脈にある療養施設でアルコールのない生活を2ヶ月送るが、その時はよくても、パリに戻ると路上に戻るためまた飲んでしまう。6年前からはもうどこの短期施設にも入っていない」
もう1人は自分のことを話すことが好きではないということだったので、観察事項のみ記録した。
もう1人ゴミ箱の中身を見ている人がいたので声をかけたが「違う通りで他の人にもう調査受けた」ということだったので、数えなかった。
そして、最後に見つけた人は警察署の近くにいた。もう24時をまわっていて寝ていたので声をかけず観察事項を記録した。
4人という結果だった。ボランティアはこれで解散、リーダーは区役所に戻り調査票を提出する。

身近に暮らすホームレスのことをよりよく知る、手を差し伸べやすくなる、彼らの置かれている状況についてより関心を持つ、様々な取り組みをしている団体を知り今後参加しやすくなる機会であった。

パリ市ホームレス調査 準備編

パリ市連帯の夜 Nuit de la solidarité

現実を把握・現実に即した支援の実現・市民の連帯を促進
パリ市は3年前より、冬のある定められた日の晩、夜22時から深夜1時までソーシャルワーカー400人と、市民ボランティア1500人を動員し、ソーシャルワーカーをリーダーとした4-5人のグループに分かれパリ市内全ての道と場所をくまなく歩き、路上で寝る人の数を数え、その状況を調査している。
それまで研究機関から発表されていた調査結果と違い、例えば女性ホームレスの割合は2%ではなく14%だということがわかって女性用のホームレス施設が増設されたり、現実に合った支援を模索するための方法とされている。
しかし、それだけでなく、1500人の市民ボランティアが普段ホームレスに声をかける勇気がない人も研修を受けホームレスの現状を知り、路上で出会う人たちと一晩中会話する中で、話しかけたり必要なことを聞く練習をし、より気軽に手を差し伸べられるようになることも目的としている。

その夜のうちに相手の状況を解決することはできないが、出会うホームレスが支援を求めている場合は、本部に連絡してソーシャルワーカーたちが現地に赴き対応する。


2019年の結果
調査した2月7日の夜、路上で寝る予定だと答えた人、路上で寝ていた人は3641人。2018年より200人多い(調査場所の増加による影響もある)。
うち女性12%、未成年92人。
路上にいたのが2600人、駅300人、地下鉄300人、ブローニュの森とヴァンセンヌの森の中300人、病院の廊下や待合室100人、駐車場45人。
当日パリ市ホームレス用宿泊施設2万5000床は全てうまっていた。
区によって路上生活者の人数には大きな差があった

パリ市は市民ボランティアと支援を必要とする人たちのための事務所を設けている
パリ市は「連帯作り」(Fabrique de la solidarité)という事務所を持っており、そこを訪れた市民はいつでも、どのようなボランティア活動があるか知り自分の得意分野を生かせるもののアドバイスをもらったり、どんな寄付の需要があるか知ることができる(女性の生理用品の寄付箱など置かれている)。困った状況に置かれている市民は、そこでインターネットを使ったり、温かい飲み物を飲んだり、どこでどんな支援を受けることができるか相談することができる。

申し込みと事前講習
「連帯の夜」にはパリ市のホームページから1ヶ月前から申し込みをすることができ、深夜の調査なので歩いて帰れる区を選ぶ。当日の一週間前と二週間前に「連帯作り」にて講習がある。
講習は2時間におよび、30人ずつくらいのグループに分かれ、市と協力関係にある民間福祉団体の職員2人と、現役のホームレス2人によって、ホームレスの現状、誤解しないために理解しておくべきこと、するべきこととするべきではないことなどの説明を受ける。
講習タイトル「相手の元に向かうことができるように」

現役ホームレスであるマチューさんからまず現状の問題点について説明があった。
ホームレス用緊急番号は1時間待ってもつながらないことは多々あり、1/3は電話がつながってもどこもいっぱいで宿泊場所の確保に至っていない。なので、ホームレスの2/3は普段そこへ電話さえしない。また、継続して宿泊できるのは1泊から3泊のみである。大部屋に大勢いる宿泊施設もあり、かえってゆっくりできない経験をしていると、もう行きたくないという人もいる。また、パートナーと離れたくないと宿泊施設を希望しない人もいる。
マチューさんは宿泊施設が合わず、仲間と一緒に森にいることを希望しホームレスのままでいる。
課題として、長期で過ごすことのできる施設を増やすこと、またマチューさん自身は団体に協力し、トイレをホームレスに貸してくれる商店を増やす取り組みをしている。
マチューさんによると「ホームレス生活は最悪の孤立生活だ。自分は全く誰とも話さない人間になっていた。宿泊施設も不快で戻りたくなかった。けれど、この団体に『手伝ってもらえないか』と頼まれ、集会所の掃除、商店との交渉の活動をするようになって、おしゃべりな人間に戻ることができた」と言っていた。

マチューさんから以下のアドバイスをもらった。
・話しかけるときは、寝ている人でも、同じ高さに目線を合わせること
・「こんにちは」という挨拶と「私はOOで、OOをしに来ました」と自己紹介を最初にすること
・「NO」と言われたら、今話したくないということなので、決してそれ以上プライベートな時間を侵害しないこと
・大人数だと圧倒されるので最大でも2人。3人以上で押しかけない。
・寝ている人、片付けている人は、自分の家にいてプライベートな時間を過ごしている感覚なので決して話しかけないこと。物を盗まれたり怖い思いをしたことがある人ばかりなので、視界に入る場所からのみ近くなどびっくりさせない配慮をすること。
・何が必要かこちらが勝手に判断するのではなく、何かして欲しいことがあるか聞くこと。体調悪そうだったので勝手に救急車を呼ぶ、苦手かもしれない食べ物を買ってきて渡すなどしてはいけない。スーパーやパン屋に行く前に路上にいる人に出会ったら、何を買ってきてほしいか聞くのが良い。

 当日編へ続く

2020年2月20日木曜日

フランス警察未成年保護班


フランスは、重要なポイントについてそれぞれ専門の機関を作ることによって、問題がそのまま放置されないようにし、かつ各関連機関に情報が共有されるようにしている。専門の職種もある。
「子ども裁判所」「心配な情報の収集と判断を担当する県の機関」「 児童相談所に預けられた子どもの状況を調査検討する学際的、複数機関横断的委員会 」「国立児童保護研究所」、子ども裁判官、児童保護専門医などである。

今回は警察の未成年保護班について紹介する。
近隣の人の通報や、学校で子どもが「親に叩かれた」と言ったとき出動するのが未成年保護班である。

未成年保護班がいることのメリットは、
・子どもの事情聴取専門の警察がいること
・子どもが被害届を出さなくても、調査、裁判所につなげる
子ども裁判所とやりとりのうえ、児童相談所の施設に保護、それと同時に調査し裁判資料を用意する。そのことによって、兄弟間の暴力でも、加害者は罰せられる。
私の参加した児童保護施設の会議では、数年前に兄から性的強要されて入所している女性について、成人である18歳の誕生日と同時に、兄からの慰謝料である84万円が妹である女性の口座に児童相談所経由で振り込まれたということが議題の一つに上がっていた。女性は知的能力が低く、兄のことを「かっこいいし、合意があった」と言っているのだが、兄は慰謝料以外にも治療プログラムへの参加が義務づけられている。
・子どもが加害者であるいじめや嫌がらせについても大人と同じように取り調べし、裁判所に調書と子どもを引き渡すことで、悪化することを防ぐ。

未成年保護班の具体的な活動について、2019107日にZone Interdite (M6)というテレビ番組で紹介された具体事例をもとに紹介する。
(Brigade des mineurs: au secours des enfants en danger)
(南フランス、マルセイユの近くのToulon市の未成年保護班へ1年間密着取材した内容)
全国400ヶ所に警察未成年保護班が設置されている。
  Toulonでは5人チーム。うち4人はこの道11-30年と経験豊富。一年間児童保護施設で働いた人も。志願者はそう多くない。小さな子どもへの事情聴取、思春期反抗期の子どもの事情聴取は使うべき言葉とるべき態度、専門の訓練を受けていないと難しいからである。

1-2回はリスクや危険な状況に置かれているという子どもの通報を受け裁判所命令で子どもの緊急保護をしている。それとは別に、毎日平均3件新規の相談を受けている。聞き取りは全てビデオに撮って管理している。

緊急保護
 例)20歳の母の新生児。保健所からの定期的に体重を量りに来ていないという連絡と、衛生状況に問題ありとの通報。去年既に新生児を亡くしていることもあり、裁判官命令で予防のための保護の決定。
→この際も専門部隊なので乳児院と連携しミルクについて母に確認するなど細やかなケアもしている。

いじめ
全国で年間7万人のいじめを未成年保護班が扱っている。
例)11歳の女の子が、学校でのグループのインスタに「バカ、アホ」など悪口を書かれたと警察に来る。未成年保護班は聞き取りの上、別に加害者を呼び出し、確認。加害者の女の子は反省していると泣く。後日加害者は裁判所に呼び出され、検察官より、「法律の再確認」(rappel à la loi)を受ける。罰ではないが、裁判所に呼び出し今回した内容が罪であることを確認させることで再犯を防ぐ。
子ども裁判官によると、「即座に対応しなければなりません。子どもについては棄却はありません。一回のいじめでも、裁判所で対応することで再度同じことが起きたり悪化することを防ぐのです。大きな問題は、その前に何度も起きる中で発展しているので、なるべく早く対応することが重要です」
→一回の嫌がらせでも発展を防ぐため時間をかけ、複数のステップを踏み扱っている。
 (安發注:スイスは必ず罰を与えることで自分のしたことについて考える時間を与える。学校登校前に公園の清掃員の手伝いを週何回何ヶ月+同じ種類の事件の裁判の傍聴5回など)

ティーンエイジャー同士のトラブル
例)17歳同士、クラスで男子が自分の性器を何回も触れとうるさく言うので、女子は更衣室で男子の性器を触りこすらされた。女子は「嫌だった」と泣き、男子は完全に何もなかった、そんなことはしていない」と否定。男子と女子一緒の部屋で警察も男性と女性二人で聞き取りをする。最後まで男子は否定するが彼女が苦しんでいる様子を見て男子になぜこのような事態になったか考えさせ、警察も交えた話し合いの機会にする。真実がどうだったかはわからないこともあるが、二人だけのトラブルとして発展させない、女子が誰も助けてくれないと思わないでまた相談できるようにすることが重要であると話す。

未成年の性被害
全国で毎年2万人の未成年性的被害者を警察は保護している。
例)知的障害があり断りきれなかった女の子を車で連れ去り自分の性器を触らせた男性を市内の監視カメラで車両番号から割り出し逮捕する。
例) 16歳の高校生と47歳の妻子持ちの中学時代の先生との恋。16歳も47歳も中学時代の性交は否定。自由恋愛を主張。16歳は「心配しないで、ほっといて」と訴える。法律上は15歳から合意の上好きな相手とセックスすることができるが、教師と生徒など監督すべき立場の場合は法律違反になる。双方が中学時代の性交については否定するので、証拠はつかめず、子ども裁判官に相談後、検事に書類は送られなかったが警察から教師へ注意。「愛人として続けられると思った」という教師に対し「それは妄想です」「16歳を自宅に連れ込むことの重要性、彼女の女性としての人生にあなたとの関係が与える影響は大きい」と警察は諭す。

未成年が加害者となる性的犯罪も増えている。全体の1/4は未成年である。ポルノが出回り、現実との境界線がわからなくなっている若者がいる。性的事件の35%は家庭内で起きている。
例)15歳の経済的に豊かな家の男子、成績優秀。携帯にポルノがたくさん入っているということで心配だと連絡がある。そこで聞き取りのなかで、6歳半の妹に性器を触らせ、自分も妹のを触っていたことがわかる。裁判所で、治療を受けることが命令された。
被害者の妹にも個別に説明、兄をかばおうとする父親と母親も個別に警察より起きたことの重大性を説明する。
例)父親からの性的虐待。11歳の子が最初の聞き取り時は「何もなかった」と言うが、2回目は全部話す。警察はその場で少女をほめる「言うことができてがんばったね、自分のことを強かったと誇りに思うんだよ。決して恥ずかしいと思わないこと、自分は何も悪くなかったんだからね」そして、夫が逮捕されて一人で子どもたちを抱えることになった母にも「父親がいなくなったことについて決して彼女のせいにしないこと、彼女が自分をとがめるような状況にしないこと、彼女の将来について、女性として生きていくことについて考えケアすること」などその場で注意している。

スポーツ選手の11%は性的暴力の被害に逢ったことがある。
例)かつていとこの夫から性被害を受けいたラグビー選手はスポーツ界での性被害を予防し、被害者を助ける団体を立ち上げ活動している。
スポーツ省がこの団体に委託し全国のスポーツのエリートに対し性被害を予防し被害者を守る講習を受ける機会を作っている。未成年保護班のことを知らない小さな子どももいるので、助けてもらう方法を教える。テレビでも青少年への講習の後、4人の子どもが講習後講師に相談をした。1人はセクハラ、3人は触られることがあることについてだった。自分で警察に行くのは勇気がいることもあるので、団体は被害を警察に申し出る手伝いもする。
団体Colosse aux pieds d’argile

未成年保護班の警察は、子どもたちは重い荷物を背負ってここに来るので「ここに全部置いて行きなさい。あとは私たちが引き受けるから」と伝えている。

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https://www.police-nationale.net/brigade-protection-famille/#missions-brigade-protection-famille

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職業:ライター / 通訳 キーワード:子どもの福祉、家族政策、子どもの権利、教育、社会的養護、周産期ケア 掲載・発表 『対人援助学マガジン』 2021年9月第46号 pp.282-326 「フランスのソーシャルワーク(5)児...